この文章はすでに日本が初のワールドカップ出場を決め, 一段落したところで 書いている. よって, あのときのような興奮状態にないことをお断りしておく. 韓国にいくことにしたのは 9月のはじめ. まだ最終予選が始まる前だった. そのころはまだ日本が予選を勝ち抜くことになんの不安もなかった. 11/1 の韓国戦は予選の中でも最大の山場であることはまちがいなかった. それまでに日本は 1位通過をほぼ確定していなければいけないと思っていた. しかし実際にはその前の UAE 戦を終わって 3位. 2位も難しくなっていた. そんな中での韓国戦. 自分としては, それまで仕事が忙しかったので自分自身への ごほうびも兼ね, 半分観光気分でやってきていた. 試合当日. 前日までの異常な寒さ(もっとも緯度的には東京より北なので寒いわけだが, それを 差し引いても寒いとガイドはいっていた)は若干やわらぎ, 少し安心した. 15:00 キックオフに対し, ホテルを 9:30 に出発. これでも予定よりは 30分遅くなった. この時間は会場までの渋滞が予想できないということによるものであった. しかし, 道路はいつも通りだったらしく(少なくともその時間は), 30分ほどで到着した. バスの駐車場にはすでに何台ものバスが止まっていた. みんな同じように来ているのかと 思ったが, 実はそうではなかった. 大半は警官のバスであった. 警官たちは年齢が比較的若く, よく指導されていた. 日本でいったら自衛隊のようなまとまりが感じられた(やはり兵役のある国は違うか). そしてゲートにならんだ. さすがに早いのか前には 100人いるかいないかだ. 多分いい席が確保できるのではないかと思った. スタジアムの中がちょっとだけ見えた. 韓国のゴール裏には「Let's go to France, together」 かなりなめられている. 出場を決めている国の余裕か. 12:00 の開門までの約2時間. ずっと並んでいたわけだがこれは辛かった. というのも, 日陰であり, ちょっとした水たまりは凍っているほどの寒さだったからである. 自分としてはわりと厳重な防寒をしていたつもりだったが甘かった. しかし, 半ズボンな人もいたので我慢した. 並んでいる間, テレビカメラは何台かやってきて取材していった. ちょっと目だった 恰好な人は撮影されていた. また, どこかの大学生が文化人類学の資料集めとかで好きな色はなにかというアンケートをしていた. さて, 12:00 をまわり, 開門. きっと中は日向だろう. そう信じて列を進める. ゲート入口で並ばず横から入ろうとしている(だろう)団体がいた. 列の後ろからは「ちゃんと並べ」という罵声がとぶ. みんなすでに殺気だっている. 寒いところ並んでいたから仕方ないか. スタジアム内はほんとうに暖かかった. 極楽. ここでなら待つのも楽だ. 弁当を食べてまつ. 席は2Fのゴール正面 4列目ほどを確保できた. よい席だと思った. そうこうしているうちにスタジアムは真っ赤になる. やはりアウェイはすごい. もちろん国立だったらこれが真っ青になるのだが. メンバーが発表された. メンバーは予想通り. カズはゴールを決められないので, ロペスに期待する. 国歌斉唱の後キックオフ. 負けられない試合が始まった. 最初からいい感じだ. UAE戦のときよりも球離れがいい. そして相馬のセンタリングから名波のゴール. ビューティフルなゴールだ. 我々がいる目の前のゴールのサイドネットにボールは吸い込まれた. わき上がるスタンド. 舞う紙吹雪. まさかアウェイで, しかも開始早々得点できるとは. 信じられない. しかし, その後も責めまくる日本. すごくいい感じだ. 相馬のセンタリングも 面白いように上がる. 名波のディフェンスもすごくいい. 北沢は運動量が多く, ディフェンスはよかったが, 攻めは決定力を欠いていた. 途中, ロペスのオーバーヘッド. オリンピック予選のときに城が見せたが, あんなものとは違う. 正真正銘, 普通の低いセンタリングからのどんぴしゃりだった. 残念ながらキーパー正面だったが, そんなことはお構いなしに素晴らしいシュートだった. このシュートが象徴するように, 日本はいい攻めを見せた. そして再び相馬からの センタリングでロペスのゴール. 低いセンタリングに足を合わせ, コースを変えただけ. お手本のようなシュートだった. まさかの前半での2点リード. 出来すぎ. しかし後半, 韓国は息を吹き返す, というよりいつものように日本は運動量が 落ちてしまったのかもしれない. 危ないシーンが連続する. 途中でロペスがイエローをもらってしまった. 次のカザフ戦にでられない. 2点リードしているのにそんなにカッカすることはない. ちょっと残念だ. 韓国は決定的なシーンを何度も迎える. しかしこの日の日本ディフェンス陣は 集中が切れず, あのときのようにゴールを割られることはない. 最後韓国に退場者が出て, 空いたスペースに平野を投入するが, いまいち要領を得なかった. 岡野でも面白かったかもしれない(サイドは逆だったが). そして試合終了 2-0 . 完封とは最高の出来だ. 試合終了後, ロペス, 北沢が我々のいるスタンド側にやってくる. また, グランド内で日本の旗を振っているプレスがいた. よほど嬉しいんだな(自分もだ)と 思ってよくみると川平慈英だった. スタンドからは「カビラ」コールが起きた. 本当に彼はうれしそうだった. 次の日のニュースステーションは大変だろう. 興奮も落ちつき, サポータも帰りはじめた. しかし感心なのはちゃんとみんな紙吹雪を片付けていること. あの青いごみ袋はちゃんと 役にたっているのだ. 自分のまわりを片付けてスタジアムを後にする. 帰りはバスに乗らず, 独自に電車にのって帰った. 当然韓国サポータと出くわすわけだが, 殺気だった様子は全然なかった. やはり余裕からか. 試合前, 日本との対戦に対し, 絶対勝つべきだという意見と負けてやってもいいではないか という意見があったときく. 確かにそうだったのかもしれないと感じた. ロッテワールドで夕食後, ホテルの前を歩いていたら中学生らしい韓国サポータに出くわした. 彼らは日本のレプリカユニホームと自分たちのとを交換してほしいという. 残念ながらもっていなかったのであきらめてもらった(でも向こうはバッタものっぽかった). 英語を話す少年は「Good gameだ」といっていた. やはり友好的だった. ホテルに帰ってからニュースを見た. もちろん試合がトップニュースだ. 時間も半端ではない. 日本のニュースはどうだっただろうか. 深夜眠りに入ろうとテレビを消すとどこかの部屋からは「ニッポン」コールが起きていた. 初戦のウズベキ戦以来の勝利. うれしくないわけがなかった. 次の日観光の時間があったのでとりあえず新聞を買った. ハングルは全く読めないが6誌買った. もちろん試合のことが1面だ. 「屈辱的な完敗」とでも書いてあるのだろうか. 新聞は日本に帰ってからも6誌買った. とにかくフランスへ首の皮一枚がつながった. それだけが嬉しかった. おしまい.